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LOT 24
上村 松園〈1875-1949〉
七夕之図
107.0×41.7cm
絹本彩色・軸装
右下に落款、印
共箱・東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
解説を読む
¥
1200000
-
2000000
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上村 松園〈1875-1949〉
七夕之図
107.0×41.7cm
絹本彩色・軸装
右下に落款、印
共箱・東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
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-
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明治から昭和の激動期を疾走し、近代日本画の歴史に不朽の足跡を刻んだ巨匠・上村松園。彼女が生涯をかけて追求し続けたテーマは、単なる容姿の表面的な艶やかさや可憐さにとどまらず、女性の内面から匂い立つような品格と、凛とした精神の美しさであった。その画面に流れる空気には常に端正な倫理観と清廉な美意識が満ち満ちており、本作「七夕之図」もまた、日本において古来より大切に受け継がれてきた年中行事である七夕を題材に取り、京都の伝統的な町家文化の静謐な佇まいの中に、格調高い気品と深遠な母性の情愛を昇華させた味わい深い一幅となっている。
本作の画面構成を紐解くと、掛け軸特有の縦長空間を見事に活かした、緊張感と緩やかさが調和する完璧な余白の美が貫かれている。画面上部には、色紙を模した二つの図像が微妙な重なりを持って空間に浮かぶように配置され、画面下部には畳の上に膝を崩さず静かに座し、七夕の飾りに心を寄せる女性と幼子の姿が配されている。上部の色紙図案と下部の人物群との間に大きく配された余白は、京町家の奥深くに流れる静閑な空気の質感を表現すると同時に、夏の夕暮れ時にそよぐ涼風の気配、さらには天井の先に広がる夜空と天の川への精神的な広がりを優雅に示唆しているかのようである。
画面上部に配された二枚の色紙模様には、七夕の節句の伝統的な起源や季節の移ろいが極めて精緻に描写されている。右側の色紙に青々と描かれているのは、細やかな線描で葉を重ねた竹笹の図案であり、その枝先には色鮮やかな紙細工や短冊が密やかに吊るされている様子が見て取れる。風にしなやかに揺れながらも決して折れることのない竹は、古来より清廉潔白や不屈の節操、そして無病息災を象徴する瑞祥の植物として重用されてきた。一方、その左側に重なる色紙には、切れ込みのある大きな「梶の葉」と、その上空を軽やかに舞う一匹の「赤トンボ」がシックな墨調で描かれている。梶の葉は、墨で歌や願い事を葉上に書き記して星に捧げたという七夕の古風を象徴する極めて重要なモチーフであり、赤トンボは初秋の訪れと季節の澄んだ空気感を視覚化している。これらふたつの色紙表現は、七夕という行事が持つ祈りの側面、すなわち手芸や裁縫、書道などの技芸上達を星に祈る伝承と、家族の無事息災を祈る人々の想いを装飾的かつ精神的に想起させる役割を果たしているのである。
画面下部に視点を向けると、そこには言葉を交わさずとも通い合う母子の温かな情愛のドラマが紡ぎ出されている。落ち着いた鶸茶色の着物を上品に着こなし、丸髷風の端正な髪型に結い上げた女性は、手元で千代紙を用いた七夕飾りや折り鶴の制作に真剣な面持ちで取り組んでいる。その女性の傍ら、床面には木製の糸巻きや色糸、端切れといった「裁縫道具」がさりげなく置かれており、女性の手仕事の丁寧さや京町家における日々の暮らしの丁寧な営みが実感をもって伝わってくる。
女性に向かい合うように座る幼子は、深みのある濃紺地の着物に朱赤の美しい帯を締め、後ろ姿でありながらも無心に母の手仕事を見つめる愛くるしい情緒を漂わせている。その小さな右手には、鮮やかな赤色に熟した一輪の「赤鬼灯」が大事そうに握られ、さらに幼子の着物の裾には、夏の朝の気品を象徴する鮮やかな朝顔の意匠が見事にあしらわれている。
東京国立近代美術館所蔵の代表作「母子」など、数々の作品において日本の年中行事や母子の情愛をテーマに取り上げてきた松園であるが、本作「七夕之図」では、生活の一コマを切り取った親しみやすさと高雅な芸術性とが見事なバランスで交錯している。静やかな余白の広がりの中に佇む母子の姿と、どこまでも澄み渡る線描の美しさのみられる本作は、鑑賞者の心に深い安らぎと洗練された感動をもたらす見事な一幅であるといえよう。