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LOT 228
髙島 野十郎〈1890-1975〉
高原の秋
41.0×53.5cm
キャンバス・油彩・額装
左下にサイン・裏面に署名、タイトル、年記
1940年 (昭和15年)
日本洋画商協同組合鑑定登録証書付
解説を読む
¥
5000000
-
8000000
ABSENTEE BID
LOT 228
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髙島 野十郎〈1890-1975〉
高原の秋
41.0×53.5cm
キャンバス・油彩・額装
左下にサイン・裏面に署名、タイトル、年記
1940年 (昭和15年)
日本洋画商協同組合鑑定登録証書付
¥
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昨年2025年7月の千葉県立美術館での展示を皮切りに、本年2026年12月までの長期間にわたり、福岡県立美術館、豊田市美術館、大阪中之島美術館、渋谷区立松涛美術館、宇都宮美術館と全国を巡回している大規模な「没後50年 髙島野十郎展」。現在まさに美術ファンの注目を集めているこの回顧展は、画壇と距離を置いた孤高の画家、髙島野十郎の評価を更に高めることに大きな役割を担っているといえよう。
本作の画面構成において、まず目を奪われるのは、背景に聳え立つ雄大な山脈の造形表現である。野十郎は、大気の中に刻まれた山の稜線と、その複雑な斜面の起伏を、冷徹とも言える確かな観察眼で捉えている。陽光を浴びて微妙に色彩を変える岩肌や山肌の皺は、単なる地形の描写に留まらず、大自然が内包する悠久の時間を具現化しているかのようである。山脈の描写において、画家は青みがかった紫から深い茶褐色、あるいは背後の空へと溶け込んでいく淡い色彩の階調を巧みに操り、空気遠近法を極めて高い精度で実践しており、特筆すべきは、空の表現に見られる極限の静けさである。ほとんど雲のない、しかし完全に一様ではない秋独特の高くて薄い空の青は、野十郎が生涯にわたってこだわり続けた「光」の存在を逆説的に証明しており、画面上部にわずかに浮かぶちぎれ雲が、広大な空間の広がりをより一層強調している。
視線を中景から近景へと移すと、そこには野十郎の自然に対する深い慈しみと、土俗的な風景への憧憬が色濃く反映された空間が広がっている。画面右側に配された、ひなびた茅葺きあるいは板葺きの家屋は、年月を経て風化した屋根の質感が驚くべき執念で描き出されている。石が置かれ、古い木材が組み合わさったその屋根は、かつてこの地で営まれていた、あるいは現在もひっそりと続けられている人間の生活の息吹を象徴している。しかしそこには人影はなく、ただ静寂だけが支配している。この「不在の気配」こそが野十郎の風景画の本質であり、鑑賞者はそこに孤独でありながらも満ち足りた画家の精神世界を重ね合わさずにはいられない。家屋の傍らには、秋の訪れを告げるコスモスが咲き乱れており、その淡いピンクや白の色彩が、大地や山々の重厚なトーンに対して、繊細で軽やかな旋律を奏で、左側の敷地に咲く黄色や白の花々、そして画面左端で鮮やかに紅葉したカラマツと思しき樹木の朱色は、秋という季節の深まりを視覚的に決定づける重要な要素となっている。
作品の制作年は1940年。1929年から1933年にかけての滞欧期に、最先端の西洋美術の潮流に触れながらも、むしろ古典的な写実の極致や己の内面へと向かう視線を研ぎ澄ませた野十郎は、帰国後、日本の自然を独自の光の解釈で再構築する作業に没頭した。同年に制作された関連作として、福岡県立美術館所蔵の「山の夕月」(1940年)などが挙げられるが、そこに見られるように、この時期の野十郎は山岳や自然が見せる一瞬の、しかし永遠のような静寂を捉えることに執念を燃やしていた。本作「高原の秋」もまた、そうした画家の旺盛な制作意欲と、自然への極限の没入から生まれた一品であることは疑いようがない。画面左下に実直に刻まれたサイン、そして裏面に遺された署名、タイトル、1940年の年記は、画家がこの作品を完成させた際の一切の妥協を排した矜持を今に伝えている。