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LOT 61
Léonard Foujita (藤田嗣治)〈1886-1968〉
芥子と矢車菊
10.3×9.0cm
キャンバス・油彩・額装
右下にサイン「Foujita」、年記・裏面にスタンプ「藤田嗣治」
1948年
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
レオナール・フジタの手による1948年の小品「芥子と矢車菊」は、わずか10.3×9.0cmという極小のキャンバスに、画家の魂が痛切なまでの美意識を伴って凝縮された逸品である。制作年である1948年という年は、フジタの生涯において最も孤独な時期であり、同時に再出発を期した重要な転換点であった。戦時中の日本での活動に対する批判を浴び、失意の中にあった画家は、再び彼の地を踏むことを切望しており、この小さな四角い窓の向こうには遥か彼方の精神的故郷であるフランスへと想いを馳せたフジタの、切実で清廉な祈りが込められている。
まず、画面の中心で圧倒的な存在感を放つ赤い芥子(ヒナゲシ)は、フランスでは「コクリコ(Coquelicot)」の名で親しまれ、初夏の野を埋め尽くす情景はフランスの原風景そのものである。花言葉は「慰め」「休息」、そして「情熱」を意味し、芥子はフランスの国花の一つでもある。細密な筆致で描かれた花弁の脈動や、中心部の複雑な雄蕊の描写は見事であり、特に、中央に配された芥子の蕾や花芯の質感は、油彩とは思えぬほど透明感に満ちており、鑑賞者を引き込む力がある。
次いで、その傍らに寄り添う青い矢車菊は、フランス語で「ブルーエ(Bleuet)」と呼ばれ、芥子と並んでフランスの国花としての地位を占める花である。フジタは、このギザギザとした独特な花弁の一枚一枚を、面相筆を用いた極細の線で峻烈に描き出しており、この青は、単なる色彩ではなく画家が愛したパリの空、そしてフランスという国家への変わらぬ信頼を象徴するかのようである。
これら赤と青の花々を支え、引き立てているのが、フジタ独自の技法による「白」の空間である。1920年代のパリ・モンパルナスで世界を驚かせた「乳白色の肌」の技術は、この小さな静物画においても遺憾なく発揮されており、背景の白は、単なる余白ではなく、光を内側から発光させるような奥行きを持ち、赤と青の色彩をより鮮明に、より高貴に浮き上がらせる。
この画面に咲き誇る鮮烈な「赤」の芥子、凛とした気品を湛える「青」の矢車菊、そしてフジタの代名詞とも言える乳白色の清潔な「白」の背景が組み合わされることで、画面上にはフランスを象徴するトリコロール(三色旗)が密やかに、しかし確固たる意志を持って立ち上がっており、この「赤・白・青」の調和こそが、当時の日本で孤立を感じていたフジタが、心の中で描き続けた「自由・平等・友愛」なのではなかったのかと考えさせられる。
フジタが描き出した花の作品では、そのモチーフとして薔薇やチューリップなどが多く使用されているように思われる。しかし、本作品ではそれまでに殆ど描かれることのなかった芥子と矢車菊が描かれており、且つ、そのそれぞれがフランスの国花に該当するという事実だけでも、そこに偶然とはいえない画家の意志があったことは明らかであろう。その点においても、本作品は単なる静物画という範疇を超え、一人の芸術家が最も困難な時代に抱いた「愛国心」と「芸術的野心」が、ミニアチュールという至高の形式によって結実した稀有な一作であるといえ、これほどまでにパーソナルで、完成度の高いフジタの小品に出会える機会は、そう多くないはずである。
¥
12000000
-
20000000
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Léonard Foujita (藤田嗣治)〈1886-1968〉
芥子と矢車菊
10.3×9.0cm
キャンバス・油彩・額装
右下にサイン「Foujita」、年記・裏面にスタンプ「藤田嗣治」
1948年
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
レオナール・フジタの手による1948年の小品「芥子と矢車菊」は、わずか10.3×9.0cmという極小のキャンバスに、画家の魂が痛切なまでの美意識を伴って凝縮された逸品である。制作年である1948年という年は、フジタの生涯において最も孤独な時期であり、同時に再出発を期した重要な転換点であった。戦時中の日本での活動に対する批判を浴び、失意の中にあった画家は、再び彼の地を踏むことを切望しており、この小さな四角い窓の向こうには遥か彼方の精神的故郷であるフランスへと想いを馳せたフジタの、切実で清廉な祈りが込められている。
まず、画面の中心で圧倒的な存在感を放つ赤い芥子(ヒナゲシ)は、フランスでは「コクリコ(Coquelicot)」の名で親しまれ、初夏の野を埋め尽くす情景はフランスの原風景そのものである。花言葉は「慰め」「休息」、そして「情熱」を意味し、芥子はフランスの国花の一つでもある。細密な筆致で描かれた花弁の脈動や、中心部の複雑な雄蕊の描写は見事であり、特に、中央に配された芥子の蕾や花芯の質感は、油彩とは思えぬほど透明感に満ちており、鑑賞者を引き込む力がある。
次いで、その傍らに寄り添う青い矢車菊は、フランス語で「ブルーエ(Bleuet)」と呼ばれ、芥子と並んでフランスの国花としての地位を占める花である。フジタは、このギザギザとした独特な花弁の一枚一枚を、面相筆を用いた極細の線で峻烈に描き出しており、この青は、単なる色彩ではなく画家が愛したパリの空、そしてフランスという国家への変わらぬ信頼を象徴するかのようである。
これら赤と青の花々を支え、引き立てているのが、フジタ独自の技法による「白」の空間である。1920年代のパリ・モンパルナスで世界を驚かせた「乳白色の肌」の技術は、この小さな静物画においても遺憾なく発揮されており、背景の白は、単なる余白ではなく、光を内側から発光させるような奥行きを持ち、赤と青の色彩をより鮮明に、より高貴に浮き上がらせる。
この画面に咲き誇る鮮烈な「赤」の芥子、凛とした気品を湛える「青」の矢車菊、そしてフジタの代名詞とも言える乳白色の清潔な「白」の背景が組み合わされることで、画面上にはフランスを象徴するトリコロール(三色旗)が密やかに、しかし確固たる意志を持って立ち上がっており、この「赤・白・青」の調和こそが、当時の日本で孤立を感じていたフジタが、心の中で描き続けた「自由・平等・友愛」なのではなかったのかと考えさせられる。
フジタが描き出した花の作品では、そのモチーフとして薔薇やチューリップなどが多く使用されているように思われる。しかし、本作品ではそれまでに殆ど描かれることのなかった芥子と矢車菊が描かれており、且つ、そのそれぞれがフランスの国花に該当するという事実だけでも、そこに偶然とはいえない画家の意志があったことは明らかであろう。その点においても、本作品は単なる静物画という範疇を超え、一人の芸術家が最も困難な時代に抱いた「愛国心」と「芸術的野心」が、ミニアチュールという至高の形式によって結実した稀有な一作であるといえ、これほどまでにパーソナルで、完成度の高いフジタの小品に出会える機会は、そう多くないはずである。
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