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LOT 40
上村 松園〈1875-1949〉
螢かりの図
48.2×41.5cm
絹本彩色・軸装
右下に落款、印
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
上村松園が描く美人画の世界において、本作「螢かりの図」は、静謐な夏の夜の空気感と、女性の内に秘められた清らかな情熱が見事に結実した一枚であるといえ、絹本に施された繊細極まる彩色は、松園が到達した「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵」という理想を、掌中の珠のごとき鮮やかに描き出す。
まず目を引くのは、画面左上を微かに明滅しながら舞う一匹の螢と、それを追う女性の視線が結ぶ、目に見えないほどに細く、しかし確固たる緊張感に満ちた一本の線である。螢狩りは、古くは平安時代の貴族たちが涼を求めて興じた風雅な遊びであり、「蛍」は日本の文学や美術において「恋心」や「はかない命の輝き」を象徴する重要なモチーフとして扱われてきた。松園は、単なる風俗的な一場面としてではなく、闇の中に浮かび上がる光を追い求める女性の姿を通じて、人間の純粋な憧れや、美に心を奪われる刹那の情趣を捉えようとしており、女性が左手で着物の袖を軽く抑え、右手を高く掲げて団扇をかざすその一瞬の姿勢は、古典的な舞の型を思わせるような均衡を保ち、静止した画面でありながら、そこにはかすかな衣擦れの音や、夜風のそよぎさえ感じられる。
女性が手にする団扇に目を向ければ、そこには鮮やかなブルーの朝顔が描かれている。朝顔の花言葉は「明日もさわやかに」「固い絆」といった前向きな意味を持つ一方で、その短命な開花から「はかない恋」を暗示することもある。螢の淡い光と、団扇に描かれた朝顔の対比は、夏の夜の短さと、その一瞬に賭ける美意識を重層的に表現し、団扇越しに透ける背景の余白は、単なる空白ではなく、湿り気を帯びた日本の夏の夜気を体現しており、観る者を作品の世界観へと深く誘う。
女性が纏う着物の意匠もまた、本作の見どころの一つである。淡い萌葱色を基調とした着物には、七宝繋ぎの紋様が繊細な筆致で施されている。この幾何学的なパターンを、女性の体の曲線に合わせて柔軟に配置することで、装束の立体感と絹の柔らかさを巧みに表現し、帯には大胆な市松模様があしらわれ、そこに金彩を交えた豪華な刺繍が施されているのが見て取れる。この黒と金の対比もまた、画面全体を穏やかに支配する淡い色彩の中で力強いアクセントとなり、高貴な女性の凛とした佇まいを強調している。
松園の美人画における最大の特徴は、その「眼」と「指先」にある。本作における女性の眼差しは、螢を見つめる集中力によって微かに潤みを帯び、その慈愛に満ちた表情は、現実の女性を超越した聖性をさえ帯びている。また、団扇を持つ指先のしなやかさは、解剖学的な正確さを超えて、感情の機微を雄弁に物語る。松園はかつて「眉のひとつの描き方、口元のわずかな表情によって、その女性の心が決まる」と語ったが、本作における伏せ目がちな睫毛の一本一本、そして微かに開いた朱唇の表現には、彼女が追い求めた「真・善・美」の結実が認められるであろう。
上村松園が終生描き続けたのは、単なる美しい女性の姿ではない。それは、日本人が古来より大切にしてきた、季節の移ろいを感じ取る繊細な感性であり、日常の中に美を見出す精神の貴さであった。この「螢かりの図」には、松園が愛した古典の世界と、彼女自身が戦い抜いた画道への情熱が静かに同居している。螢の光を追うその一瞬に、永遠の美を封じ込めた本作は、まさに蒐集家にとって、次代へと語り継ぐべき作品のひとつであると言っても過言ではないであろう。
¥
8000000
-
15000000
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上村 松園〈1875-1949〉
螢かりの図
48.2×41.5cm
絹本彩色・軸装
右下に落款、印
東美鑑定評価機構鑑定委員会鑑定証書付
上村松園が描く美人画の世界において、本作「螢かりの図」は、静謐な夏の夜の空気感と、女性の内に秘められた清らかな情熱が見事に結実した一枚であるといえ、絹本に施された繊細極まる彩色は、松園が到達した「一点の卑俗なところもなく、清澄な感じのする香高い珠玉のような絵」という理想を、掌中の珠のごとき鮮やかに描き出す。
まず目を引くのは、画面左上を微かに明滅しながら舞う一匹の螢と、それを追う女性の視線が結ぶ、目に見えないほどに細く、しかし確固たる緊張感に満ちた一本の線である。螢狩りは、古くは平安時代の貴族たちが涼を求めて興じた風雅な遊びであり、「蛍」は日本の文学や美術において「恋心」や「はかない命の輝き」を象徴する重要なモチーフとして扱われてきた。松園は、単なる風俗的な一場面としてではなく、闇の中に浮かび上がる光を追い求める女性の姿を通じて、人間の純粋な憧れや、美に心を奪われる刹那の情趣を捉えようとしており、女性が左手で着物の袖を軽く抑え、右手を高く掲げて団扇をかざすその一瞬の姿勢は、古典的な舞の型を思わせるような均衡を保ち、静止した画面でありながら、そこにはかすかな衣擦れの音や、夜風のそよぎさえ感じられる。
女性が手にする団扇に目を向ければ、そこには鮮やかなブルーの朝顔が描かれている。朝顔の花言葉は「明日もさわやかに」「固い絆」といった前向きな意味を持つ一方で、その短命な開花から「はかない恋」を暗示することもある。螢の淡い光と、団扇に描かれた朝顔の対比は、夏の夜の短さと、その一瞬に賭ける美意識を重層的に表現し、団扇越しに透ける背景の余白は、単なる空白ではなく、湿り気を帯びた日本の夏の夜気を体現しており、観る者を作品の世界観へと深く誘う。
女性が纏う着物の意匠もまた、本作の見どころの一つである。淡い萌葱色を基調とした着物には、七宝繋ぎの紋様が繊細な筆致で施されている。この幾何学的なパターンを、女性の体の曲線に合わせて柔軟に配置することで、装束の立体感と絹の柔らかさを巧みに表現し、帯には大胆な市松模様があしらわれ、そこに金彩を交えた豪華な刺繍が施されているのが見て取れる。この黒と金の対比もまた、画面全体を穏やかに支配する淡い色彩の中で力強いアクセントとなり、高貴な女性の凛とした佇まいを強調している。
松園の美人画における最大の特徴は、その「眼」と「指先」にある。本作における女性の眼差しは、螢を見つめる集中力によって微かに潤みを帯び、その慈愛に満ちた表情は、現実の女性を超越した聖性をさえ帯びている。また、団扇を持つ指先のしなやかさは、解剖学的な正確さを超えて、感情の機微を雄弁に物語る。松園はかつて「眉のひとつの描き方、口元のわずかな表情によって、その女性の心が決まる」と語ったが、本作における伏せ目がちな睫毛の一本一本、そして微かに開いた朱唇の表現には、彼女が追い求めた「真・善・美」の結実が認められるであろう。
上村松園が終生描き続けたのは、単なる美しい女性の姿ではない。それは、日本人が古来より大切にしてきた、季節の移ろいを感じ取る繊細な感性であり、日常の中に美を見出す精神の貴さであった。この「螢かりの図」には、松園が愛した古典の世界と、彼女自身が戦い抜いた画道への情熱が静かに同居している。螢の光を追うその一瞬に、永遠の美を封じ込めた本作は、まさに蒐集家にとって、次代へと語り継ぐべき作品のひとつであると言っても過言ではないであろう。
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8000000
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